歌うクジラ(下) 村上龍

ストーリー

父が残したデータを届けるためにヨシマツの居場所を目指すアキラは人々が猿のように生きる「理想村」や自由を失い、生命をロボットに管理されている施設を目の当たりにし、ついには宇宙へと向かう。アキラは旅の果てで何を想うのか。

 

個人的な感想

・不安や恐怖は常に現実を超えて精神に火をつけて、ときには現実から目を逸らさせようとしてくる。これは未来のためにやるべきことが自分には多すぎると不安になって、Shorts動画に逃げてしまうことが最近多い私に刺さった。長い動画を見たら時間の無駄になってしまうけど不安が増しそうで現実は見たくない。そういう時は現実の恐怖よりもまして精神に火がついてしまっているんだと学んだ。物語のなかでそれを教えてくれるのがアキラの父やアンジョウ(みんなの嫌われ者)っていうのもよかった。

・「生きるうえで意味を持つのは、他人との出会いだけだ。そして移動しなければ出会いはない。」最後、宇宙空間に投げ出されたアキラの言葉だ。感動した。私は少し前まで移動を拒んで新しい出会いから逃げていた。最近になってこのままでいいのかと不安を感じ、移動を繰り返して様々な人に出会った。それらはほとんどが苦しくて今も自分を憎む理由になっている。でもそれこそが、むしろそれだけが生きるうえで意味を持つことだと言ってくれたことで心が救われた。

 

読まれる理由

冒険系の特徴は「続きが気になる」と「最後の余韻」である。世界観が分かれば続きが気になってすぐ最後まで読んでしまう。上巻の方の感想で書いたように「父親のデータベース」で世界観の説明をしているのがイイ。アキラの優秀を伝えることもできているので一石二鳥でイイ。また最後、イスンによって助けられたのかどうかを言わないことで、この本の内容に習っていうなら、現実(本に書いてある物語)を超えて想像力に火をつけることができる。

愛も必ず必要だ。アキラは愛についてあまり知らないようだけれど、だからこそ本能的な愛情が表現されていてイイ。

 

好きだったところ

・人間の特性を表すいくつかの説明。「人間には生の執着がある。そして自分や自分が所属する小集団だけでなく、他者の生の執着も満たすことができないと罪悪感を感じる。」

「クジラの物語はSW遺伝子によって階層化が生まれることを気づかせないための作り話」

「協力者に秘密を渡す(フリをする)というのは特権意識を与えることになって信頼関係よりもコントロールしやすい。」

・「恐怖に襲われたら自分の外側に変わらずに世界があることを確かめないとだめだ。」

「僕の心臓や脳が活動を停止しても、永遠に存在し、続いていく世界があるのだと、宇宙空間では、そのことがごく自然に、また強烈に刻まれている。」

普段生きていたら「変わらずに世界があること」を実感しづらいが宇宙のことを考えると確かに実感できる(宇宙ステーションでのアキラのように)。

・「死は恐いものじゃない。恐いのは死や苦しみを想像することだ。」

「想像力」は物語のキーワード。

・「人間は笑うことで恥から逃れようとするから笑えなくすれば恥ずかしさが皮膚の表面まで自然に浮き上がってくるのよ。」

グロい

・「鳥肌が立つほど可愛らしく、吐き気がするほど卑しかった。」

圧倒的に弱者である状態の美しい他者。

・「何をなすべきか、何をなすべきでないのか、その答を探すのは、魚の腐った臓物が散乱したゴミ捨て場の真ん中で失くした財布を探すのに似ている。辛い作業だが他の場所を探しても失くした財布は見つからない。お前はすでに正しい答えを知っているはずだ。正しい答は、いつもシンプルだ。」

・「だから人間は自分を恨むのを中断するための方法や手段を考える。きっと人間は無自覚のうちにそのことだけをずっと考えているのだ。」

何かの奴隷でないとやっていけない。そしてそれは美しくないものがほとんどだ。

白鳥(短編集) 村上龍

所感

「或る恋の物語」「彼女はいってしまった」「わたしのすべてを」の3作品は世界線が同じで、主人公ではないが、赤川美枝子という一見地味な女が出てくる。この赤川美枝子が魅力的なキャラクターだ。

世間とは少しズレた価値観を持つ男たちは赤川美枝子にハマる。いわゆる「俺だけのマドンナ」的な存在だ。彼女は弱さと大胆を併せ持っており、支配できそうでできない。上司に詰められて泣いたり、嫉妬して別れ話を持ち出す。その一方でキューバ人と付き合ったり、ひどいヒステリーを起こした後にセックスをしたりする。

仮に見た目が良かったら彼女の考えていることは分かった気になれるだろう。しかし見た目の地味さという「弱さ」が「強さ」になってしまうような、由来のわからない落ち着きや自信が彼女を魅力的にするのだ。

 

好きだったところ

・「別れ話ではなく男も泣く女もいるが、泣きながらでも料理を食べるのは女だ。泣く男はスープも飲まない。」

女の方が残酷だと男の私は思う。

・「世間は『満ち足りている』という認識で覆われている。〜今足りない何かっていうのは昔はちゃんとあった、っていうのは幻想だ。」

でも何が足りないかはわからない。それを探すのをやめてもいけない。

・「〜評論家とか文化人が『今の若い人はバリーホリディを聞かなきゃ』なんて言っているのをラジオで聞いたりしたんだったら死んだってレコードを買おうなんて思わなかっただろう。」

自分や友人の選択で自分の世界が動くのがやっぱり嬉しいんだよな。権威的なものに自分の心まで動かされてたまるかという反骨心。

・「胸は騒ぐのにもっと深いところで安らぎを覚えるという不思議な感覚に捉われた。」

赤川美枝子の魅力には母性も混ざっている気がする。

 

歌うクジラ(上) 村上龍 

ストーリー

階層化による平和のために文化が統制され、欲望が偏った社会。主人公のアキラは父の遺したものを届けるために島を出る。その中で彼は「見ること」と「想像すること」を通じて自身の暴力性と性欲の目覚めを見出していく。

 

所感

完全に階層化された社会という設定が現実的でおもしろい。そして登場人物が魅力的。なんとなく似てるキャラクターを当てはめてみると、アキラ→永井圭(亜人)、サブロウさん→ミツキ(BORUTO)、アン→キャスカ(ベルセルク)っぽいなと思った。(サブロウさんはもっと似てるのありそうだけど、、)

設定の説明をアキラが「~と父のデータベースで知った」とか「そもそもなんでしってるんだ?(宇宙ステーションにいる奴から刷り込まれている)」といった感じで行っている。SFの設定は細かくなると読む気が失せるが、設定の説明さえも物語の進行において重要な要素になっているのがすごい。

 

好きだったところ

・「想像することで恐怖が生まれる。~いつかはこういうときが訪れるだろうとそれまでずっと不安に怯え恐怖したものが今やっと現実になったのだと、人生のゴールに辿り着いたような気分になるのかもしれない。」

ソナチネでも言ってた。

・「悲しみや喜びという感情は何が起こるかわからない未来に対するために人間が手に入れたものだと父親に聞いた。」

あまりにも整備された社会では将来に対する期待や不安もなくなるからこそ、感情を客観的にみている。

・「~神経に火をつけるのは視線と言葉だ。」

・「~比喩をつぶやけば表面をなぞるだけで現実に接触しないですむ。比喩は逃避だ。」

たとえツッコミには「同じものを知ってる嬉しさ」もあるけど「現実逃避」の要素もあるんだ。

・「~海の向こうにはすばらしいものが私たちを待っているという歌などわたしたちは歌わない。~」(生徒の読み上げ)

はたから見たら憐れだけれども生徒たちはこれでいいのかも。

・「髪を頭頂で丸くまとめて黄色の花飾りをつけた専門職の女はくるぶしあたりが赤黒く腫れていた。」

とくにおばさんにみられる「孤独な醜さとまごころ」の共存による切なさがある。

・「~悲しみは固い岩に垂れ続ける水滴のように心に垂れて隙間を作るだろう~」

心は常に満ちている。ただその中身にはいいものもあれば悪いものもある。

 

新しい語彙

燐 ひとだま、リン、ホタル火

箴言(しんげん) 教訓の集合

緞帳(どんちょう) 舞台の幕

符牒(ふちょう) 心のしるし、仲間内の合言葉

走査 画像を点や線に分解して電気信号にする。電気信号から画像を作り出す

軒を連ねる ずらりと並んでいる

不俱戴天 この世にともに生きてはいけないほど恨んでいる(敵)

 

残像に口紅を 筒井康隆 パート1

所感

「あ、あの言葉が消えたんだ」というのに気づくと、少数の人だけが気づいてることに自分も気づいてるときの喜び(漫才とかで元ネタがわかるときの感覚)があった。

「言葉が消えていっている」という事実すら認識できずに苦しむ虚構内存在の姿はなんとも切なく、あえて言うなら老いによって不自由が増えてしまった人を見ているときの切なさに似ていた。切なさだけでなく、時には滑稽さも感じられ、それに対する佐治の冷静で少し辛辣なキャラという構図が面白くて笑った。

 

好きだったところ

・「苦しみは忘れていく。楽しみはその場限りのもの。そして失ったものもまた忘れていく。残ったものだけにすがりつき、残余の命を保っていこうとする。」

・「雹と霧と霞の彼方」

・「肛門的リビドー」(←大学の授業でコレクター型の人はこれを感じやすいとかなんとか言ってた記憶がある。その教授はオブジェプティタ?みたいなことも喋っていて興味深かった)

・「まるで演技者のように、ですか」「まるで演技者のように、ですか」(佐治が虚構内存在にこれは虚構であると伝えたところ)

・虚構でも現実でも結局消える。そして虚構も好き放題というわけではない。虚構と現実のぼんやりとした境界に真実がある。

・佐治の妻が消えつつあり、ぼんやりとしたものになってしまう場面。言葉で表さない方が美しくぼやけるのかも。

・「自己の原点に近づいているかのような感動」

・「生きていくことだけが生きていける条件だ」

・「いたずらっこを諭しているときのような笑い」

・「敗者になっても悔しがらないような自己訓練」

・「遠い潮騒喝采に」

 

新しい語彙

・上梓 書物を発行する、版木に文字を刻む

・俚言 俗語、方言

・感化院 少年院の昔の呼び方

 

 

 

星のように離れて雨のように散った 島本理生

序盤は穏やかで幸せそうな感じだったし、女性主人公から見えてる男がキツイなーと思っていたけれど、それぞれの登場人物が抱える弱さが見えてくるごとにどんどん面白くなっていった。

「同化」の話はとても興味深く、「私と混ざる前の、ただそこに単体として存在していた彼のことが本当に大好きだったのだ。」というフレーズはとても共感できた。そして、これを乗り越えた先に愛を見つけたいと思った。孤独な僕らはいつだって誰かとつながっていたくて、そのためにはもうどうしたって「同じところ」が必要でつながりを邪魔する「違うところ」を隠そうとする。隠そうとすると相手への誠実さから罪悪感が生まれ、罪悪感の原因である相手のことが好きなのかわからなくなってしまう。sincerity is scaryってホントにそうだなと思う。まだ足りない。この小説はまた何回も読む。

 

・「亜紀君と出会うまで私は本ばかり読んで、そんな映画ばかり見ていた。いつも世界が終わる前日のようだった。そういう深い森みたいな暗がりで安心すると、幸せではないけれど巣穴にこもっているようで楽だった。でも今はどうしてそれで毎日過ごすことがでいていたかわからない。」

・「長い付き合いになるほど感情も呼び名がなくなるんですよ」

・「勇み足で思い切ったことを言って、相手の反応を伺うのって自信がない男がやりがちな奴だよ」(アナログ でも似たようなのあったな~)

・「嫌いな自分にフタをして好きな相手の言葉や価値観だけで自分の中をいっぱいにしたら、その時は甘い気持ちでいられるかもしれないけれど、相手の方は逆にどんどん原さんの方が見えなくなるよ。原さん自身だって。」

・「書きたいものがあっても、書かなくてはならない理由がなければ、完成しないのが小説」

 

 

 

 

 

 

 

アナログ ビートたけし

・登場人物の掛け合いがおもしろかったり、母親の人物設定などのところからビートたけしが書いたんだなあと何度も思った。登場人物はみんな、キレイじゃないけどあたたかくて、それも「あの夏」みたいだ。終わり方はさらに象徴的で、決してハッピーエンドに振り切るわけではないが、ちょっと怖くなるくらいの、永遠を感じるようなしんみりした幸せを感じた。俺はこういうのにあこがれるんだけど、こういうの幸せにたどり着けるのってどっかで自分のやりたくないこととか恥ずかしいことをやって、歳を重ねた人だけだろうな、、

・帯の「凶暴なまでにピュア」って表現はちょっと媚びてる感じがあってむかつく。でもたしかに悟(主人公)は物語の中でもひときわピュアで、異常さはある。

・好きな文

「急にウキウキしたかと思えば、やけに悲しくなったりして」

「何も相手に関心があるわけでもないのに、いざ相手がこちらに無関心になるとちょっとさみしくなる」

「やけになっているのか、男らしく振舞おうとしているのか分からないが、そう決心した」

「また誰かを好きになることが怖かったのかもしれない。でも今、会いたいと思う。」

 

夢の木坂分岐点 筒井康隆

〇所感

まず最初は意味が分からなかった。解説を読んでなんとなくわかった気がする。「流転する姓名はひとりの人間に与えられたいくつもの生を象徴しているだけ」というのがほかの小説とは全く違うところで、そのせいで最初は話がつかめなかった。結局話のすべてが「彼」の、いくつも分岐した夢で、現実なんてなかった。小説などの「虚構」の中のみならずこの、今これを書いている現実も夢と差はなく、むしろ今の意識や状況はあくまで夢に影響を与える要因にすぎないのかもとかも考えた。

 

〇お気に入りの文

「怒鳴られている自分がいつか自分の息子でもあり、弟でもある存在になってしまっている」

自分の高校時代を思い出すとこの感覚にすごく近い感覚になる。

 

〇いい表現

「ぽっと点燈したばかりの桃色の酔い」

「うすみどりの風

「再生の予感」

「北風のような感嘆」

「けんめいに憎んでいる」

 

〇知らなかった言葉

侏儒(小さい人、学のない人)、隘路(狭い道)、両価性(心が二つあるー)、逆備給(自己防衛機制のためのリビドー備給)、表象代理(現実のモノはイデアの代理)